車イス活動環境診断 百合が原公園


本調査メモは公園の設置者や管理者とかかわりなく、筆者の個人的な関心から行ったものです。 従って、設置者の考え方等を聞き取っておらず、本旨を踏まえない指摘や、一面的な見方を含む可能性を否定しません。 ただ、車イス使用者が先入観なしに利用した時の、活動環境にかかる診断結果です。

1 総体的な利用環境
1.1 車イス使用者への施設対応の現状
a. 車イス使用者が公園の全域を楽しみ、一定時間留まる環境は整っている

b. ただ、障害者が来園しても大丈夫なように対症療法的な施設対応に見える
- 一般的な指針の障害者用のトイレとスロープを設けただけに感じられる
- 利用障害者像が見えず、市民からの要望や苦情等に応えただけに見える

c. これは初期段階に必要な通過点だが総合的サービスを検討する段階にある

1.2 移動環境の概況
a. 同行者のいる車イス使用者はほとんどすべての区域を廻れる環境である

b. 単独行動の車イス使用者にとって移動抵抗の大きな非舗装区間がある
- 舗装区間は車イス利用者の多くが自己決定により活動できる環境である
- 非舗装区間は移動障壁となり、走行負荷の程度は維持管理状況に依存する
- 走行負荷の増大は独力で活動できる人々と活動可能領域とに影響を及ぼす

c. 散策路、探勝路、連絡路や自転車道などの使い分けの考え方が見えない
- 幅員6mの道路が必要以上に広く、公園の魅力にマイナスに影響している
- 広い道路は移動速度の異なる人々の混合となり、速度差が事故の元になる

1.3 公園の機能やレイアウトの現況
a. 植物園を中心に運動公園、近隣公園、児童公園等を兼ね備える総合公園
- いろんな目的を持った人々が利用できる、客層の間口の広い公園である
- 利用客の間口が相乗作用して公園の利用価値を高めているかは疑問である

b. 公園は多くの機能を持ち、それらがモザイク状に広大な敷地に分散する
- 中核的機能である植物園の利用動線が不明確で、植物展示の哲学が見えない
- 公園の広さと動線の不明が公園の感覚的距離を拡げ利用心理的の圧力になる
- 第二駐車場とセンターとが閉鎖空間を醸し、期待感が公園全体に向かい難い

1.4 障害者や老人への情報提供の状況
a. 前提;障害者や老人は未知の場所への外出に対して臆病である
- 外出したい欲求はあるが、それを抑圧する自己規制の意識が圧倒的に強い
- 障害者や老人が持つ閉塞感の開放が介護者の精神的な負担を同時に開放する
- 障害者や老人が抱える外出への躊躇を越えさせる動機付けの設定が望まれる

b. HPには多様な情報が織り込まれているが情報の過剰は不親切になる
- 障害者や老人の大多数が情報の入り組んだHPを丹念に調べるとは思えない

c. 季節ものの商品を扱うのに、HPで旬の情報にたどり着くことが難しい
- 生ものを扱うのに、通年で代わり映えしない表紙では中を覗く気にならない

d. バリアフリー情報でドライウォールガーデンを紹介するが場所か判らない

e. 常連以外の来園者はどのように楽しむのか判り難い現地の案内地図である
- 公園平面図は情報満載でいて、知らない人に魅力の伝わらない案内図である

2 個別ゾーンの環境
2.1 ロックガーデン
a. 園路が非舗装で他の区域に比べ走行抵抗が大きく、場所によりムラもある
- 雨上がりに水たまりができたり、路面が軟弱化したりして走行抵抗が高まる

b. 探勝路は斜路で、非舗装である上に勾配5~10%区間の走行負荷が大きい

c. 斜路の一般的な基準は5%だが、それは路面抵抗の小さい状態を想定する
- 走行抵抗は勾配と路面抵抗の複合なので実質勾配は基準の5%以上になる

d. 乾燥路面は硬いが、湿潤状態や砂利により走行抵抗の大きな区間がある
- 急勾配箇所に脱輪防止板が設置してあり、安全、安心な昇降に有効である
- 車イス使用者は同行者と一緒であれば容易に上り下りできる探勝路である
- 単独行動の車イス使用者が斜路を上る際、ときに負荷の大きな区間がある

e. 斜路の幅員が1.2mほどで車イスの交差に必要な1.8mの部分が要る
- 花壇の展開方法と斜路の延長や交差場所間隔を勘案する配置が望まれる

2.2 香りの庭と宿根草園
a. このゾーンは車イスでの利用を想定しないように思われる。その理由は、
- 園路がすべて非舗装で路面は芝生で覆われ、車イスでの走行抵抗が大きい
- 路面に不規則な起伏があり、車イスでの走行を不安定にする区間がある
- 周回園路との取り付け部分に急勾配箇所や、不連続な箇所がある

b. ここの地形は設計次第で車イスで入れるが、あえて入れない設計である

2.3 バラの花壇
a. ゾーン全体が丘状に盛り上げられ、花壇と緑地が斜面上に配置してある

b. 園路勾配は3%前後であり、舗装の表面仕上げが平滑で移動負荷が小さい
- 斜路の延長が長いので、耐久性への負荷が大きくなる点に留意が必要である
- 同行者があれば車イス使用者は大部分が問題なく利用可能な環境である

c. テラス脇の斜路が最大10%超で、機能障害により昇降困難な伴う人がいる
- 急勾配の上りには車イス使用者の瞬発力が要求される
- 急勾配の下りには車イス使用者が落車の危険にさらされることがある
- 勾配が限界を超えると短い斜路でも、通過できない障壁となる場合がある

d. 東駐車場からの最短ルートに階段があり、テラスへ大きく迂回を要する

2.4 芝生広場
a. 周回路は7割ほどが既舗装だが、ムスカリの道区間が木チップ舗装である
- 車イスの前輪が木チップに潜るため、走行抵抗がかなり大きい部分がある
- 車イスの介助に慣れない同行者は立ち往生や不安定な走行などの事態もある
- 車イスの介助走行時に急減速が起こると、障害者の落車の危険が高まる

b. 無料区域の外周を廻るのにムスカリの道か、迂回するか選択を迫られる
- 有料庭園の観賞後に駐車場に戻る際、遠回りを強いられる場合が起こる

2.5 百合の広場
a. 星形花壇の園路勾配は10本がすべて7~10%と一般的な基準より急である
- 路面が硬く平滑なので、同行者と一緒であれば容易に上り下りできる
- 園路の10本中4本の降り口が非舗装園路なので、車イスでは通りづらい

b. 池外周の森の園路は3/5程が非舗装で、木チップのため走行抵抗が大きい
- 単独で活動する車イス使用者にとり木チップ区間は走行抵抗がかなり大きい
- 園路幅員1.5m程で車イスの交差に基準幅に足りないが設計意図は理解する
- 木漏れ日を感じながら通れる数少ない園路だが、非舗装が残念である
(他に木漏れ日のある道もあるが幅員6mの舗装道路で情緒が感じられない)
- 木チップの散布が樹林の保護目的なら、何らかの方法での被服ができないか

c. 池を渡る4本の道のうち1本は非舗装区間を通らなければならない
- その事実は現地で初めて知らされ想定外の場面で移動経路の選択を迫られる

2.6 センター施設、温室
a. 玄関前の高さのすりつけが6%と急な上に、自動扉の前に踊り場がない
- 冬期に温室を公開するので、転倒等の危険防止策が望まれる

b. 温室は床面に木チップを敷き詰めると、固まるまでの間移動抵抗が大きい
- この床に木チップを敷く理由と必要範囲は何か?課題に他の対応策がないか

2.7 リリートレイン
a. 車イス使用者を含む移動制約者が乗れ、全域を紹介するサービスである
- 車イスで乗車できるかなどの情報が少なく、周知方法に工夫の必要がある

2.8 ガーデンショップ
- 二カ所ある進入路は12と18%と昇降に恐怖感を感じる程の急勾配である

3 園内設備
3.1 トイレ
a. 分布密度
- 車イス対応トイレの配置が温室付近に集中し、配置の再検討が望まれる

b. 緑のセンター内のトイレ
- 支持棒や握り棒の位置等に改良の余地があるも、一定の水準を満たしている
- 清潔感や冬場の室温等の関係で利用価値が高いので万全の管理が望まれる

c. 管理事務所脇のトイレ
- このトイレは立地や利用法の関係から見つけ難かった

d. バラ花壇ゾーンの隅のトイレ
- トイレの床の高さが地盤高よりかなり高く、車イスでの接近を難しくい
- 斜路の勾配が16%超、扉前に踊り場無しで、車イス対応仕様からほど遠い
- 斜路の上端が崩れ、この数ヶ月手が打たれず、維持管理方法にも問題がある
- 運動能力の高い車イス使用者でも扉の開け閉めに支援が要るアクセスである

e. 西側遊具広場の脇のトイレ
- 9/14に故障閉鎖中だったが、最寄りのトイレの案内が必要と思われる

3.2 水飲噴水
a. 分布密度
- 密度の適、不適の基準は無いが、配置の考え方と利用状況の確認が望まれる

b. 構造
- 車イスで使える二カ所の内、パークゴルフ場脇は存在が隠れアクセスが悪い
- 他の5カ所は車イスで接近できるが、座位で水の吹き出し部に口が届かない

3.3 特殊舗装/非舗装
a. インターロッキングブロック(園内各所)
- 路面の状態が良く平坦性が保たれて、車イスでの走行抵抗が比較的少ない
- ただなぜそれを採用し、所期の目的を果たすかについては疑問を感じる

b. タイル(星形花壇)
- 路面が硬く滑らかで目地の凹凸も少なくて、走行抵抗は少ない
- ただ、多くが8%以上の勾配であり、濡れたときなどスリップの危険がある

c. 小石張りブロック(東駐車場付近)
- 車イスでの走行抵抗が大きい上、車イスの振動が身体に応える
- このブロックを使う設計上のねらいが想像できず、適否の判断は留保する

d. 小石張りブロック(世界の庭園)
- 瀋芳園は門脇のスロープで入れたが、このブロックで立ち往生し引き返した
- 中国様式で表現上で必要なのかもしれず、その適否を判断を留保する

e. 木チップ(ムスカリの道、世界の百合ほか)
- 代替路が大きく迂回するよりない場所では何らかの対応策の検討が必要
- 移動制約者の利用を想定した周回コースを設定して舗装することが望まれる

f. 小砂利敷き(ロックガーデン)
- 雨上がりや雪融け時期などに車イスによる走行をしても適否の検討を要する

3.4 あずまや
a. 管理が不十分で、清潔感の損なわれたあずまやが幾つかある

b. 木陰のあずまやが屋根付きで、陽なたが素通しだったりで意図が不明

3.5 ベンチ
a. 座面高31~41cm程のベンチが混在するが、その使い分けの意図が不明

b. サービスの考え方に合わせて使い分けるなら、サービスの幅と質が向上

3.6 案内標識
a. 高い位置に取り付けられ、車イス使用者や子供を含め見上げねばならない

4.1 園路の距離案内と各種ウォーキングコースの設定
a. 園路の距離標が来園者による公園の利用法を拡げられる可能性を感じる
- 現状は距離の表示が離散的にあるだけで、コース設定が判然としない
- 現在のコースのサービス対象者群が判然としない。メタボ対策コースか?

b. 利用目的別や利用時間別などの散策モデルコースを利用者に提案しては?
- 駐車場、園路、植物展示、休憩場所、トイレ、給水などサービスの総合化

4.2 利用案内の方法
a. HPは“生もの”の商品をイキの良い状態で見せる情報発信が望まれる
- 現在のHPは“干もの”中心の案内で、“生もの”は付け合わせに見える
- 情報のトップは「今週の百合が原」などの旬の写真で惹き付ける工夫が必要
- 毎週旬の情報のアップが難しいなら、利用者に依る投稿欄も効果的

b. 飛び込みの来園者が旬の情報を得られ、公園を堪能させる情報提供が必要

4.3 移動制約者用を含む利用者への案内マップの作成
a. 駐車場、トイレや走行負荷の大きい場所を告知する案内図の製作が欲しい
- 森、ブッシュ、花壇や芝生などを表現すると利用者の選択の判断材料になる
- 現状の案内図に若干の情報を加えた暫定版の情報マップを別図に示す

b. HPで提供する地図情報はpdfとし、自宅で印刷しやすい情報が望まれる

4.4 守りから攻めへの転換
a. 従来の公園は来園者による自由使用を前提とした整備計画に見られる
- 上の論理を隠れ蓑にして、作為的に不作為を成して来なかったか?

b. ローズウォークには公園管理者の哲学と来園者へのメッセージがある

c. 来園者の利用方法を制約せず、利用法を誘導する展示を目指してはどうか
- 旭山動物園の行動展示は来園者の利用方法を誘導する展開方法である
- 植物園が来園者の利用方法を誘導し、公園の価値を魅せる展開法もよい
- 植物園を中心とする特質を拡大、来園者を魅了する展示の検討が望まれる

4.5 高齢社会における公園計画の再検討
a. 大規模公園の使命が時とともに変わり、時代を先取りする展開も必要
- 高度成長期と高齢社会とで大規模公園が社会に果たすべき使命に変化がある

b. サービスの対象者群を分析し、各群の利用方法と要求の検証が望まれる
- 利用法にあうきめ細やかな配慮は潜在的な利用者の来園の動機付けになる

c. 人生を楽しみつつ、健康寿命を延ばせる、長い付き合いの公園が望まれる
- 老人の体力維持と社会参加に資する市民参加型の公園造りは園芸学校の目的
- 認知症を含め、多様な疾病の予防やリハビリテーションに有酸素運動が有効
- 近くの病院、老健施設やデイケアとの連携により、公園の価値を高められる

d. 近隣住民が老人や障害者となる前から繋がりを持てる公園のあり方が有効