02の法則


ときとして不思議な偶然に驚かされることがあります。 しかし、その不思議が偶然の繰り返しにその源がある場合に、反復的な偶然が当事者にとっての常態と化し、意識されることなく認識の狭間に埋もれてしまいます。 筆者がそのような不思議に気付いたのは、車いすに依存する生活を始めて間もない頃の、ある大規模スーパーでのことでした。 当時、外出する先は活動環境の整った施設のみで、具体には障害者用駐車スペースと車いすで使えるトイレのある施設でした。 そこには専用駐車スペースが2台分ある上に、それが屋内なので全天候性でした。そして、何度か通ううちにある疑問を持ちました。障害者用スペースの利用状況が、全体の混み方と異なります。 即ち、駐車場が全体に混んでいるのに障害者用スペースが空いていたり、またその逆のケースがありしました。 次で、周辺の駐車状況とは関わりなく、専用駐車スペースにある車の台数が0か2台のことが多いことに気付きました。 たとえば0台の状態で筆者が駐車すると、帰るときには駐車台数が2台になります。その利用状況を子細に調査しておりませんが、およそそのような利用状況でした。

その後、障害者用駐車スペースを利用したり、利用できなかったりした経験を基にこの偶然の理由について考えた結果、それは不思議でもなければ偶然でないとの考えに至りました。 通常同スペースは利便性の良い場所に設けられる一方、必ずしも利用度が高くありません。そこは駐車場利用者にとって使いたい誘惑に駆られる場所となります。 しかし、利用者の大部分はその場所が何のために設けられたか知っておりますので、心理的な抵抗が働き利用しません。 しかし、同スペースの一方が使われている場合に、他の健常者が使っているのではとの推測が働き、精神的なバリアが低くなると考えると、先の不思議が理解できます。 以上はあくまでも筆者の印象と、仮説から導いた推測です。従って、誤解、想い違いの可能性を否定しませんが、経験を重ねるに従い的はずれと思えなくなりました。

ユニバーサル・デザイン(以下U.D.と記す)は環境と製品とに係る設計理念ですが、その目指す先に構成員が統合的に生きられる社会の実現があります1)。筆者は土木技術者であると 同時に車いすに依存する者として、これまで U.D.に関して環境設計の切り口から私見を述べてきました。しかし、上の例は環境整備がハードの設計問題にとどまらず、そこを利用する人々の 意識にまで踏み込むことの必要性を教えます。欧米では障害者専用の駐車スペースを設け、それを明示すれば一般スペースの混雑状況に関わらず尊重される旨聞きました。他方、 本邦においては障害者用スペースを設け、障害者用の国際シンボルマークを掲げるだけでは障害者の利用機会の平等に十分とはいえません。そこで、設計時に想定したサービスが適切に 提供できるか否かにまで配意することが必要です。かかる視点からこれまで利用した駐車場について検証しました。

千歳空港の駐車場では荷物を携えることと、また降雨時や積雪期の利用もあることから、専用スペースを使えないときは難儀しました。 同空港の駐車場にはAとB合わせて20台分以上の障害者専用スペースがあります。しかし、つい最近まで3回に2回程の割合で満車でした。 もちろん、たまには満車もあり得ましょうが、設計で想定する利用方法なら満車の頻度が多すぎるように思います。 多くの荷物を抱えた方々が、空港ビルに近く、便利な場所にある同スペースを利用している可能性が疑われます。 すべてでないにしも想定外の利用者が占拠した結果、サービスの提供を予定した人々が使えない事態が生じているようです。 同施設は計画上「バリア・フリー(以下B.F.と記す)設計」かも知れませんが、利用実態からはB.F.もどき施設にすぎません。 空港管理者の名誉のために付言しますと、最近同スペースの利用者に「駐車禁止地域指定除外車の証2)」の提示を求め、それのない車両に警告文を貼り付けます。 その効果か最近の2回は所定の場所を利用できた上、他にも若干の余裕がありました。監視の目のない駐車場では、ソフトによる連携が有効です。

この課題に対して施設配置で効果を上げた事例を道央高速道路の砂川S.S.に見ました。同S.S.には駐車場の奥にガソリンスタンド、レストハウス、公衆トイレが駐車場に面して並びます。 そして、車両が走行、駐車する区域と利用区域との間に緩衝地帯として歩行専用の空間があります。ここまでは他のS.S.と変わりません。 しかし、障害者用駐車スペースが歩行空間に食い込むように配置する点が異なります。通常は大きな駐車場の一角、利用施設の近くに設置します。 そのような場所では、他の駐車車両に紛れて占拠されやすいようです。 しかし、砂川S.S.では一般の駐車場から分離され、多くの人々が行き交う場所にあるため、健常者が車を乗り付けるのに心理抵抗が大きいと思われます。 筆者は何度か同S.S.を利用しましたが、先客がいたのは車いすに依存する老人の一度だけでした。 U.D.では統合が重要な要件ですが、本邦では敢えて分離することが望ましいケースもありそうです。

誘導員を含め人目の届く場所では、予定されたサービスが提供され易いようです。北大病院と北海道民活動センター「かでる27」はストレスなしに利用できる数少ない施設です。 たとえ満車で利用できなくとも納得できます。しかし、次の事例は意見が分かれるかも知れません。 札幌市中心部にある公共の駐車場には障害者専用スペースが用意され、ゲート部で ボタンを押すと誘導員が案内する旨の告知がありました。 ほぼ完璧なシステムと考え期待感を持って利用しました。その日は列ができ20分ほどの待ち時間でしたが、ゲートに至り係員に案内を請いました。 ところが、満車だからどこでも空いている場所へ駐車するように指示されました。 筆者は移動制約者であり専用スペースを利用したい旨伝え、改めて要請したところ、そこには誰かが既に駐車しておりいつ戻るか分からないとの説明でした。 事前説明のシステムと実際のサービスとの間には隔たりがありました。 満車で順番待ちの列ができる状況では、来ないかも知れない障害者のためにスペースを空けるより、そこを活用する方が柔軟な市民サービスと考えたのでしょうか? しかし、そのような運営方針ならそのように告知すべきでしょう。 それなら行列を認識した段階で異なる選択も考えられます。さて、皆様が誘導員の立場であったなら、また管理者であるとしたらどちらの運用を選るでしょう。

ここでは駐車場の事例を示しましたが、社会を構成する人々の対応如何により環境設計の考え方を変えるべき例は他にもあります。 欧州では車いす使用者や乳母車を押す人がバス停にいれば、バスの乗客が乗車を手伝う国もあると聞きます。 そのような国々と、障害者に関わることに躊躇を覚える人の多い国とでは設備や環境の設計に留意すべき条件は異なります。 U.D.は国の違いばかりではなく、地域、施設、利用者数その他、周辺環境を適正に認識することから始めるべきでしょう。

参考資料
1) ユニバーサル・デザインの原則:石田享平、北海道開発土木研究所月報、4月号、pp12-17
2) 駐車禁止地域指定除外車の証:障害を持つ人が使用する車両に対し、駐車禁止の除外となることを示す証

北海道開発土木研究所月報2001年10月掲載
2005年5月一部加筆修正